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奴等には”手”がある。知的生命体が進化の過程で獲得した最も高度で柔軟性に優れる道具だ。この手の中で多くの命がもてあそばれる。我々には手がない。突出した所の無い、八方塞がりを具現したような体形で、一矢報いる事さえ出来ない。なすところもなく潰される。命ある者としてのプライドと一緒に。

圧倒的な絶望に打ちひしがれている。こうしている間にも同胞がどこかで潰されているというのに、私は何もする事が出来ない。このままでは無力感と不甲斐なさに身を焼かれ、自らベイクドポテトになってしまう。自己調理を完遂した私は食卓に上り、奴等の晩餐を彩るのだ。”他人の不幸は芋の味”である。

ソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニンソラニン

湿気の多い場所で放置された同胞がついに芽を出した。新たな生命の息吹。絶望の底で死を待つ僕らに残された最後の希望。そんな僕らの希望はあっけなく刃物の角でくり抜かれた。許せない。我が一族に課せられた呪い、”ソラニン”の毒に臓腑を焼かれて朽ち果てて死ね。ソラニンソラニンソラニンソラニン

ポテトチップスやフライドポテトを目にするたび、やり場のない激しい怒りがこみ上げる。骨の髄まで油分に侵し尽くされ、卑しいジャンクフードに成り果てた同胞の姿は余りに痛ましい。ヘルシーな栄養食としての尊厳を完膚無きまでに踏みにじられ、それでも我々に為す術は無いのか?憎悪で夜も眠れない。

ある所に精悍で屈強な若者がいた。彼は日々、熱湯をかぶって肉体と精神を鍛えていた。「俺は生き残ってみせる。100度くらいなら何とか耐えられるはずだ」その後、彼は170度を超える油の中で死亡した。コロッケとして調理された彼はキツネ色の硬い棺に覆われており、顔を見ることも出来なかった。

想像してほしい。全身の皮膚を鋭い刃物で削ぎ落とされる恐怖を。自分より遥かに巨大な存在の掌の上で、抵抗や命乞いは全くの無意味だ。なぜなら奴等には、殺害に際する罪悪感や良心の呵責といったものが存在しない。淡々とした惨殺に対し、我々にできるのは、刃が果肉に到達しないよう祈る事くらいだ。

毎日この時間になると多くの生命が奪われる。”家庭的”な人間達が全国的に殺戮を実行するからだ。私の友人は、この時間帯に「肉じゃが」にされてしまった。牛肉の生臭さが体内に侵入する苦痛を味わいながら死んでいった。どれほどの絶望だったろうか。壮絶な最期を遂げた友人を、私は決して忘れない。
